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福岡地方裁判所 昭和48年(む)1538号 決定 1973年10月26日

被告人 吉尾隆

主文

本件準抗告を棄却する。

理由

一、本件準抗告申立の趣旨および理由は、検察官提出の「準抗告申立書」記載のとおりであるからこれを引用する。

二、一件記録および関係資料によれば、被告人は昭和四八年一〇月一二日準強盗未遂罪により福岡拘置支所に勾留され、同月二〇日、窃盗、暴行罪で福岡地方裁判所に起訴され、同月二二日福岡地方検察庁が被告人の勾留場所につき右福岡拘置支所から東福岡警察署代用監獄へ移監するについての同意を福岡地方裁判所裁判官に求めたところ、同日右裁判官は移監に同意しない旨の裁判をしたことが明らかである。

三、起訴後ひき続いてなされる勾留は、被告人の逃亡や罪証隠滅を防ぐなど審理の円滑な進行を確保することを第一義と考うべきものであり、被告人に対する余罪捜査のために被告人を移監していわゆる引き当り捜査などをすることは右勾留の目的を逸脱するとともに逮捕勾留という強制捜査のための手続を潜脱し、勾留に関する事件単位の原則にも反するものであるから、起訴後の余罪捜査のための移監は、被告人が特に積極的に希望しかつ弁護人において異議のない場合や余罪が被告事件と包括一罪等特別の関係にあつて右余罪の捜査が被告事件の審理に重要な影響をおよぼすものと認められる場合などの特別の場合を除いては、許容し難いものといわなければならない。

四、なるほど余罪捜査をすみやかにすることは被告人の利益に合致するところではあるが、余罪につき新たに逮捕、勾留の手続をとつたとしても必ずしもすみやかな捜査ができないわけではないから、それのみのために移監されるときは、前記勾留が余罪の強制捜査のために利用され、余罪につき令状なしの強制捜査を認めることになりかねない弊害を考慮すると、単に余罪のすみやかな捜査のためのみではいまだたやすく移監の同意を与える事由とはなし難い。

また、被告人は余罪を自白し「はいつた家はところをしらないので警察を連れて行つておしえる」といっていることがうかがわれないでもないが、被告人はいん唖者で法律知識にうとい者と考えられるところから右自白をもつて直ちに移監の趣旨を理解し、これを希望しているものとは認め難いのである。そして、他に本件について、前示特別の場合に該当するものとして例外的に特に移監の同意をなすべき事由はみあたらない。

五、よつて警察官の移監の同意の請求は理由がなく移監同意請求に対し同意しなかつた原裁判は相当であるから刑事訴訟法四三二条、四二六条一項を適用して主文のとおり決定する。

(準抗告申立書)(略)

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